米政府が先ごろ発表した対中国の新たな制裁関税の厳しさに、太平洋航路の関係者も「中国側の対抗措置しだいでは、今後、荷動きに何らかの悪影響が出るかも」と懸念しているようだ。
バイデン政権が5月14日に発表した新たな対中制裁関税は、中国製のEV(電気自動車)の従来関税25%をいっきに100%にまで上げ、太陽光パネルや半導体についても現行25%を倍の50%にするというもの。
ほかに鉄鋼・アルミ、EVバッテリーなど総額180億ドル(約2.8兆円)分の中国からの輸入品についても、従来より数倍の高率関税を課した。
2018〜19年にかけて当時のトランプ政権が発動した総額3700億ドル(約57兆円)相当の中国輸入品への制裁関税は、そのまま現在のバイデン政権でも維持されてきており、今回、そのうちの一部関税をさらに引き上げた形だ。
同政権はこれについて、不公正な取引慣行への制裁措置を定めた「連邦通商法301条」に基づくものとしているが、発表を受けた中国政府は同関税引き上げがWTO(世界貿易機関)のルールに違反するとして猛反発しており、「自国の権益を守るために断固とした措置をとる」と、対抗手段に出ることを示唆している。
もっとも、中国側の対抗措置と言っても極めて限られている。すでに対トランプ政権時に対抗措置は出し尽くした感があるからだ。しかも、いまだに中国側の出超状況は変わらない。
一方、米側の中国EVへの100%関税も、実際には米国で中国EVはほとんど売れていないため、それほど意味はないのである。WTOルールでは、「自国産業が実質的な損害を受けている場合」にのみ相殺関税が認められるのだから、今回の制裁関税は中国が主張するようにルール違反には違いない。
結局、この時点でバイデン政権が対中制裁関税の一部を大幅に引き上げたのは、約半年先に迫った11月の大統領選挙のための「対策」のひとつであろう。
というのも、対抗馬のトランプ氏が「バイデン政権の対中政策は手ぬるい。自分だったら中国からの輸入品関税を一律・大幅に引き上げる」と、ことあるごとに声高に主張していたからだ。その機先を制して対中関税を引き上げてしまい、トランプ氏得意の争点を消してしまう、それが主たる目的ではないか。
中国がもっか欧州に大量に売り込みつつある輸出品の目玉であるEVに“100%”という大向こう受けする制裁関税をかけ、自国産業保護を打ち出すことで、大統領選で優位に立ちたいとの思惑であろう。
EV関連や鉄鋼・アルミ、太陽パネルの対中関税は24年中に、中国得意の旧世代半導体については来25年までに引き上げられることになっている。