日本のメーカー企業の部品・製品の国内在庫が、ここへ来て増える傾向にあるという。
国の内外を問わず、企業の在庫状況はその時の経済指標になることはもちろん、物流関係者にとっては今後の荷動きを予測するうえでも欠かせない判断材料だ。その在庫が足元で増えてきたと、9月15日付けの日本経済新聞(電子版)が報じていた。
例えば、トヨタの24年6月末の棚卸し資産は4兆7877億円で、21年6月末に比べて約1.5倍に達した。また、半導体製造装置でトップシェアを持つディスコの24年6月末の在庫が前年同期比で26%増えていたり、村田製作所も来25年3月末時点で前年同期比120億円の在庫積み増しを予定している、という話が紹介されていた。
貿易のお得意先・米国でも、商務省の発表を見ると、今年の春から夏にかけて、対前月比で0.3%〜0.6%の範囲で、在庫水準がじわじわと毎月増えてきている。
ひとくちに在庫と言っても、生産に必要な「原材料在庫」、作りかけ段階の「仕掛かり品在庫」、完成し出荷待ちの「製品在庫」のほか、卸しや小売店が抱える「流通在庫」といった種類がある。そのどれもが、昨23年から今秋までの間、積み上がり傾向にあるというのだ。
興味深いのは、この「在庫」は景気の拡大期にも後退期にも増えるという特徴があること。つまり、景気が良ければ、売り上げ増加を見込んで積極的な在庫積み増しが行われるし、逆に景気が冷えれば、売れない商品が倉庫に積み上がるからである。
ところがもうひとつ、在庫が積み上がる理由が最近生じてきた。ある意味、この理由が最近は一番多いのかもしれない。
物流リスクヘッジである。日本では東日本大震災のときに、世界的にはコロナ禍に見舞われた際、サプライチェーンが混乱して、部品・資材・製品の供給が止まった苦い教訓がある。
さらに最近でも、港湾でのストや混雑への懸念、輸送日数が増える喜望峰経由ルートの採用、あるいは世界各地での異常気象なども加わり、物流リスクは高まる一方だ。こういう背景から生産・流通の各段階で在庫積み増しの動きが強まっているのだろう。
しかし、在庫増は双刃の剣だ。在庫コストは利益を圧迫する。急激に需要が落ち込めば、在庫廃棄や値引き販売で業績が悪化する。需要が冷えれば、在庫を圧縮せざるを得ず、モノが動かなくなる。
こんなリスクを抱えてでもなお、在庫を積み増す動きが強まっている状況は、グローバル企業がそれだけ安定供給を重視していることの現れなのだろう。
この記事を執筆中に、米国の東岸・ガルフ一帯の港湾労働者が10月1日から一斉ストに入ったとの衝撃的なニュースがもたらされた。こうなると、やはり在庫戦略は企業にとって最重要のBCP策と言えそうだ。