中国政府は11月19日、日本産水産物の輸入申請の受け付けを当面停止すると日本政府に通告した。事実上の日本産水産物の輸入停止を意味するものだ。
これは、高市早苗首相が同月7日、衆院予算委員会で、台湾有事は集団的自衛権の行使が可能となる「存立危機事態」になり得ると答弁したことに強く反発し、その発言の撤回を求めて発出した一連の政治的圧力のひとつ。すでに中国はこれに先立って、日本への中国人留学生や観光旅行の渡航自粛を呼びかけている。
日本水産物に関して中国は、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出に反対して、2023年8月から日本産水産物の全面禁輸を続けていたが、ことし6月に福島や東京など10都県を除く37道府県の水産物について、2年ぶりに輸入再開を発表したばかり。
これが今回、再び禁輸措置となったわけだが、各種報道を見るかぎり、意外に日本の水産業界では冷静なようだ。たとえば北海道では11月初旬に日本産ホタテの対中輸出が再開されたばかりだったが、チャイナリスクはあらかじめ覚悟していたようで、「2年間の中国禁輸中にリスク分散を進めてきた」(地元漁協)とのことで、動揺は少ない。
ホタテ漁が盛んな北海道噴火湾地区やオホーツク海沿岸にとって、禁輸前の中国は最大の輸出相手国だったが、対中ホタテ輸出がゼロとなったのを機に、中国以外の販路を拡大してきた。米国へのホタテ輸出はことしも増加傾向にあり、著しいのは東南アジア向けの成長だ。直近のホタテ輸出の52%をベトナムやタイ、シンガポールなどのASEAN(東南アジア諸国連合)向けが占めており、米国向けも28%シェアを保っている。
つまり、ホタテひとつをとっても、すでに中国依存の輸出状況にはないわけで、「この2年間の禁輸が継続するだけ」と、再禁輸についても「あの国のことだから」と、冷静に中国リスクを織り込み済みのようだ。
事実、日本の水産物輸出は中国抜きでも頑張っている。農林水産省の統計によると、この25年1-9月の水産物輸出は3025億円と、昨24年同期比で2割近く増えている。政治のことはともかく、禁輸で脅すやりかたに対しては、日頃のリスク分散がやはり大事ということか。